MIPS(ミップス)は「Million Instructions Per Second」の略称で、コンピュータやCPUの処理能力を示す古典的かつ代表的な性能指標の一つです。直訳すると「1秒間に何百万個の命令を実行できるか」という意味になります。例えば、1MIPSの性能を持つプロセッサは1秒間に100万回の命令を実行することができ、10MIPSであれば1秒間に1000万回の命令を実行できることになります。
コンピュータの黎明期から発展期にかけては、異なるメーカーのコンピュータ同士の性能を比較するための分かりやすい統一指標として、MIPS値が非常に重宝されていました。「この新しいパソコンは前のモデルよりMIPS値が2倍高いから速い」といった具合に、性能向上をアピールするためのカタログスペックとして広く使われていたのです。
しかし、現代のコンピュータシステムにおいては、MIPSという指標単独でプロセッサの性能を正確に比較することは非常に難しくなっています。その最大の理由は、CPUの設計思想(アーキテクチャ)によって「1つの命令が持つ意味や、処理の重さ」が全く異なるためです。例えば、単純な命令を大量に素早く実行する設計のCPU(RISC型)と、複雑で高度な処理を1つの命令でこなす設計のCPU(CISC型)を比較した場合、RISC型の方が1秒あたりの実行命令数(MIPS値)は高くなりやすい傾向があります。しかし、CISC型のCPUは1回の命令で多くの仕事を終えているため、実際のアプリケーションを動かした際にかかる時間は、MIPS値の低いCISC型の方が短いという逆転現象が起こり得るのです。
このように「実行した命令の数」だけで実際の仕事量を測ることの限界が明らかになったため、現在ではMIPS値はあくまで参考値の一つとして扱われています。代わりに、実際のソフトウェアを動かした際の処理時間を計測する「ベンチマークテスト」のスコアや、科学技術計算で重要となる浮動小数点演算の性能を示す「FLOPS(フロップス)」といった、より実態に即した指標が総合的な性能評価において重視されるようになっています。