はじめに

マルウェアという言葉を聞くと、「コンピューターウイルス」を思い浮かべる人が多いかもしれません。
しかし、ウイルスはマルウェアの一種にすぎません。
現在の攻撃では、トロイの木馬で侵入し、ローダーが追加機能を読み込み、情報窃取型マルウェアが認証情報を盗み、最後にランサムウェアがデータを暗号化する、といった複合的な攻撃が行われます。
さらに、2025年から2026年にかけては、マルウェアファイルを端末へ保存せず、PowerShellなどの正規機能や盗んだアカウントだけで侵入する攻撃も重要になっています。
この記事では、マルウェアの基本的な種類から、歴史的な変化、ファイルレス攻撃、Living-off-the-Land、ランサムウェア、インフォスティーラー、AIを利用した最新のマルウェアまで、初心者にも分かる順番で解説します。
結論・要点
マルウェアは、悪意あるソフトウェア全体を表す総称です。
ウイルス、ワーム、トロイの木馬、ランサムウェア、スパイウェア、バックドア、ボット、ワイパーなどが含まれます。
現在のマルウェアについて、特に重要な点は次の5つです。
1つのマルウェアが複数の機能を持つ
情報窃取と認証情報の売買が攻撃の入口になっている
ファイルを保存しないファイルレス攻撃が使われている
OSの正規ツールや正規アカウントが悪用されている
AIは攻撃を支援しているが、完全自律型マルウェアが一般化したとは確認できない
NISTはマルウェアを、データを破壊したり、侵入的なプログラムを実行したり、被害者のデータ、アプリケーション、OSの機密性・完全性・可用性を侵害したりする目的で挿入されるプログラムと説明しています。
一方、CrowdStrikeの2026年版レポートでは、同社が2025年に検知した活動の82%が「マルウェアフリー」だったとされています。
これは、攻撃の82%で被害がなかったという意味ではありません。正規の認証情報、クラウドサービス、管理ツールなどを悪用し、従来型のマルウェアファイルを使わずに攻撃していたという意味です。なお、この割合はCrowdStrikeの顧客環境と独自テレメトリーに基づく数値であり、世界中の攻撃全体を直接表すものではありません。
この記事で分かること
この記事を読むと、次の内容が分かります。
マルウェアとウイルスの違い
ウイルス、ワーム、トロイの木馬の違い
ランサムウェアとワイパーの違い
ローダー、ドロッパー、バックドア、RATの役割
インフォスティーラーが危険な理由
ファイルレス攻撃の仕組み
Living-off-the-LandとLOLBinsの意味
マルウェアの歴史的な変化
2025年から2026年の最新傾向
Windows、Linux、Docker、Kubernetesでの確認方法
WAF、IPS、EDR、XDRで守れる範囲
感染が疑われる場合の対処方法
対象読者・前提環境
この記事は、次の読者を対象としています。
マルウェアの種類を体系的に学びたい人
ITパスポート、基本情報技術者試験、情報処理安全確保支援士を学習している人
WindowsやLinuxサーバーを管理している人
Django、Nginx、Docker、Kubernetesなどを運用している人
SOC、CSIRT、EDR、IPSの運用に関わる人
自社のマルウェア対策を見直したい担当者
特定のセキュリティ製品を導入していることは前提としません。
何が起きているのか
マルウェアは単体の悪意あるファイルから攻撃システムへ変化した
初期のコンピューターウイルスは、実行ファイルやフロッピーディスクへ自分自身をコピーする比較的単純なものでした。
現在の攻撃は、複数のプログラム、盗まれた認証情報、クラウドサービス、正規管理ツール、攻撃者による手動操作を組み合わせて進行します。
典型的な攻撃の流れは次のとおりです。
フィッシング・脆弱性悪用・盗難アカウント
│
▼
初期侵入用トロイ・Webシェル
│
▼
ローダー・ドロッパー
│
▼
情報窃取・認証情報窃取・権限昇格
│
▼
ネットワーク内の横展開
│
▼
データ窃取・暗号化・破壊・恐喝
このため、「検出されたファイルはランサムウェアか、トロイの木馬か」という1種類だけの分類では、攻撃全体を説明できません。
攻撃者は「侵入する」だけでなく「正規利用者としてログインする」
インフォスティーラーは、ブラウザに保存されたパスワード、Cookie、セッショントークン、暗号資産ウォレット、クラウド認証情報などを盗みます。
盗まれた情報は、別の攻撃者へ販売されることがあります。
Mandiantは、2024年に調査した侵害で、盗まれた認証情報が初期侵入経路の16%を占め、2番目に多い侵入経路になったと報告しています。Microsoftも、インフォスティーラーが認証情報とトークンを大量収集し、ランサムウェアなどの後続攻撃へつながる経済圏を形成していると説明しています。
脆弱性悪用も依然として重大である
認証情報の窃取が増えている一方、ソフトウェアの脆弱性を狙う攻撃も減っていません。
Verizonの2026 Data Breach Investigations Reportでは、同レポートのデータセットに含まれる侵害の31%で、ソフトウェア脆弱性の悪用が初期侵入経路になっていました。
ENISAの2025年脅威ランドスケープでは、調査対象となったEU関連事例において、フィッシングが60%、脆弱性悪用が21.3%の主要な侵入経路として報告されています。調査地域、期間、対象事例が異なるため、Verizonの数値とは直接比較できません。
自分に関係するのか
マルウェアは、Windowsパソコンだけの問題ではありません。
次の環境はすべて攻撃対象になります。
| 環境 | 主に警戒する脅威 |
|---|---|
| Windows PC | インフォスティーラー、RAT、ランサムウェア、ローダー |
| Linuxサーバー | Webシェル、バックドア、ルートキット、マイナー |
| macOS | インフォスティーラー、偽アプリ、AppleScript悪用 |
| Android | バンキングトロイ、RAT、SMS窃取、オーバーレイ攻撃 |
| Webサーバー | Webシェル、暗号資産マイナー、認証情報窃取 |
| Docker | 悪意あるイメージ、Docker Socket悪用、マイナー |
| Kubernetes | 特権Pod、DaemonSet型展開、トークン窃取 |
| VPN・ファイアウォール | 脆弱性悪用、認証情報窃取、バックドア |
| 仮想基盤 | ESXi向けランサムウェア、管理認証情報の窃取 |
| クラウド | APIキー窃取、IAM悪用、ストレージ破壊 |
| IoT機器 | ボットネット、DDoS、プロキシ化 |
| 開発環境 | Gitトークン、SSH鍵、npm・PyPI認証情報の窃取 |
Microsoftは2026年、インフォスティーラーがWindowsだけでなくmacOSやPythonベースのクロスプラットフォーム環境へ広がり、ブラウザ、キーチェーン、開発環境などの秘密情報を狙っていると報告しています。
したがって、Linuxサーバーだけを厳重に守っていても、管理者のパソコンからSSH秘密鍵やCloudflare、GitHub、AWSなどのトークンを盗まれれば、正規の認証経路から侵入される可能性があります。
用語と全体像
マルウェアとウイルスの違い
マルウェアは「悪意あるソフトウェア全体」を表します。
ウイルスは、その中の一種類です。
マルウェア
├── ウイルス
├── ワーム
├── トロイの木馬
├── ランサムウェア
├── スパイウェア
├── インフォスティーラー
├── バックドア
├── RAT
├── ボット
├── ルートキット
├── Webシェル
└── ワイパー
現代のマルウェアは5つの軸で分類する
マルウェアの種類を理解するには、次の5つの軸に分けると整理しやすくなります。
| 分類軸 | 確認する内容 |
|---|---|
| 侵入・伝播方法 | どのように侵入し、広がるか |
| 実行方法 | どこで、どのようにコードを動かすか |
| 機能 | 何を盗み、何を操作するか |
| 最終目的 | 金銭、諜報、妨害、破壊のどれか |
| 運用形態 | 単独開発、MaaS、RaaSなど |
例えば、WannaCryは「ワーム型の拡散機能を持つランサムウェア」です。Microsoftの分析では、未修正のWindows端末に対してSMBの脆弱性を悪用し、ネットワーク内へ拡散する機能を持っていました。
マルウェアの歴史
1980年代:ネットワークワームが現実の被害を発生させる
1988年のMorris Wormは、インターネット上の約6,000台のコンピューターへ影響を与えました。当時インターネットへ接続されていたホストは約6万台とされており、大規模なインターネットワームの危険性を示す出来事になりました。
この時代の主な特徴は、自己複製と技術実験です。
現在のような分業型の犯罪サービスや、盗んだ認証情報を販売する市場は、まだ一般的ではありませんでした。
1990年代:マクロウイルスと電子メールの普及
1990年代には、Microsoft Officeなどのマクロ機能を利用するウイルスが広がりました。
Melissaは1999年に発生したマクロウイルスです。感染したWord文書を開くと、メールソフトのアドレス帳を利用して、自動的に文書を送信しました。FBIは、当時最速級に拡散した感染事例として紹介しています。
ここで注意が必要です。
Gemini原文では、Melissa、CIH、ILOVEYOUが「1980年代から1990年代」の代表としてまとめられていました。しかし、Melissaは1999年、ILOVEYOUは2000年です。ILOVEYOUを1990年代のマルウェアとして扱うのは正確ではありません。NISTの資料も、Melissaを1999年、LoveLetterを2000年の事例として整理しています。
2000年代:ワーム、ボットネット、金銭目的の攻撃
2000年のILOVEYOUは、メール添付のVBScriptを通じて拡散しました。感染すると、メールソフトのアドレス帳を使い、さらに多くの利用者へ自分自身を送信しました。
ブロードバンドと常時接続が普及すると、感染端末を遠隔操作するボットネットが拡大します。
感染端末は、次の目的に使われるようになりました。
スパムメールの送信
DDoS攻撃
パスワード総当たり
広告クリック詐欺
マルウェアの追加配布
認証情報の窃取
攻撃用プロキシ
この時期から、マルウェアの目的は技術的な自己顕示だけではなく、継続的な金銭獲得へ変化しました。
2010年代:標的型攻撃、ICS攻撃、ランサムウェア
2010年に確認されたStuxnetは、一般的なパソコンだけでなく、Siemensの産業制御環境を標的にしました。
CISAの資料によると、Stuxnetは複数のゼロデイ脆弱性を利用し、USBなどを通じて制御環境へ侵入する高度な構造を持っていました。
この事例は、マルウェアがデータを盗むだけでなく、物理設備の動作へ影響を与えられることを示しました。
2010年代には、QakBot、TrickBot、Emotetなどのモジュール型マルウェアも活発化しました。
CISAはEmotetを、フィッシングで拡散するトロイの木馬であり、追加マルウェアを導入するダウンローダーまたはドロッパーとしても機能すると説明しています。認証情報の総当たりや共有ドライブを利用したネットワーク内の拡散も確認されていました。
2017年:ワームとランサムウェアの複合化
WannaCryは、ランサムウェアにワーム型の自己拡散機能を組み合わせました。
利用者がすべての端末で添付ファイルを開かなくても、脆弱なWindows端末から別の端末へ自動的に拡散できた点が重要です。
同年のNotPetyaは、ランサムウェアのような画面を表示しながら、企業ネットワークを急速に横展開し、システムを破壊しました。
NotPetyaの事例は、ランサムウェアとワイパーの見た目が似る場合があることを示しています。Microsoftも、NotPetyaが複数の横展開手段を持つ急速なサイバー攻撃だったと分析しています。
2020年代:サプライチェーン、ID、クラウド、マルウェアレス
2020年に発覚したSolarWinds事件では、正規のOrionソフトウェアの更新経路にSUNBURSTバックドアが組み込まれました。
CISAは、SolarWindsのソフトウェアサプライチェーンを介して複数組織が侵害されたと報告しています。
この時期から、次の対象が特に重要になりました。
ソフトウェア更新経路
npmやPyPIなどのパッケージ
CI/CD
GitHub Actions
コンテナイメージ
クラウドAPI
IDプロバイダー
VPNやファイアウォール
仮想基盤
ブラウザのCookieとトークン
マルウェアの主な種類
1. ウイルス

ウイルスは、ほかの実行ファイル、文書、ブート領域などへ自分自身を組み込みます。
生物のウイルスが細胞を利用して増えるように、コンピューターウイルスも宿主となるファイルを利用して活動します。
主な種類は次のとおりです。
ファイル感染型
ブートセクター型
マクロ型
上書き型
ポリモーフィック型
メタモーフィック型
ウイルスは、感染したファイルが実行されることで活動を開始するのが基本です。
2. ワーム

ワームは、ネットワークやメール、USBなどを使って自分自身を複製し、ほかの端末へ広がります。
ウイルスとの主な違いは、宿主ファイルへの寄生を必須としない点です。
| 比較項目 | ウイルス | ワーム |
|---|---|---|
| 宿主ファイル | 基本的に必要 | 基本的に不要 |
| 自己複製 | する | する |
| 自動拡散 | 限定的 | 得意 |
| 主な経路 | ファイル、文書 | ネットワーク、メール、USB |
| 代表例 | Melissa | Morris Worm、WannaCry |
3. トロイの木馬

トロイの木馬は、便利なソフトウェア、更新プログラム、文書、ゲームなどを装い、利用者に実行させます。
自己増殖するかどうかではなく、「正常なものに見せかけて侵入する」という性質を表す分類です。
現在のマルウェア配布では、次のような偽装が使われます。
偽ブラウザ更新
偽VPNクライアント
偽PDF編集ソフト
海賊版ソフトウェア
ゲームのチートツール
偽CAPTCHA
偽セキュリティ警告
偽の採用課題
偽の開発ツール
Microsoftは2026年、検索結果のSEOを悪用して偽VPNクライアントを配布し、VPN認証情報を盗む攻撃を報告しています。
4. ドロッパー

ドロッパーは、内部に格納している別のマルウェアを端末へ展開します。
荷物を運んできて、その場に置いていく配送役のようなものです。
ドロッパー自体が情報窃取や暗号化を行うとは限りません。
5. ダウンローダー

ダウンローダーは、外部のサーバーから追加マルウェアを取得します。
攻撃者は、最初のファイルを小さく単純にし、感染後に必要な機能だけを追加できます。
6. ローダー

ローダーは、取得したマルウェアをプロセスやメモリへ読み込み、実行します。
ドロッパー、ダウンローダー、ローダーは重複する機能を持つことがあり、製品や研究者によって分類が異なる場合があります。
7. バックドア

バックドアは、攻撃者が後から再侵入するための秘密の入口です。
主な機能は次のとおりです。
OSコマンドの実行
ファイルの送受信
追加マルウェアの導入
シェル接続
隠しアカウントの作成
C2サーバーとの通信
8. RAT
RATは、Remote Access TrojanまたはRemote Administration Toolの略です。
感染端末を遠隔操作する機能を持ちます。
画面の閲覧
キーボードやマウスの操作
マイクやカメラの操作
ファイル操作
コマンド実行
パスワード窃取
追加モジュールの導入
正規の遠隔管理ソフトでも、利用者の許可なく配置・操作されれば攻撃に悪用されます。
9. インフォスティーラー

インフォスティーラーは、端末から換金や追加侵入に利用できる情報をまとめて盗みます。
主な窃取対象は次のとおりです。
ブラウザに保存されたIDとパスワード
Cookie
セッショントークン
自動入力情報
クレジットカード情報
暗号資産ウォレット
SSH秘密鍵
VPN認証情報
AWS、Azure、Google Cloudの資格情報
GitHub、GitLabのトークン
Discord、Telegramなどのセッション
スクリーンショット
開発環境のシークレット
Microsoftは、Lumma StealerをMaaSとして提供される情報窃取型マルウェアと説明しています。複数の攻撃者が管理画面からマルウェアを生成し、ブラウザや暗号資産ウォレットの情報を盗み、追加マルウェアを導入できる構造でした。
10. スパイウェア

スパイウェアは、利用者に気付かれないように行動や情報を監視します。
キー入力
位置情報
通話
SMS
マイク
カメラ
ブラウザ履歴
メッセージ
ファイル
インフォスティーラーが短時間で認証情報を回収する傾向を持つのに対し、スパイウェアは継続的な監視や諜報を目的とする場合があります。
ただし、両者の機能は重複します。
11. キーロガー

キーロガーは、キーボードから入力された内容を記録します。
パスワード、メール、チャット、検索内容などが窃取対象になります。
ソフトウェア型だけでなく、キーボードと端末の間へ取り付けるハードウェア型も存在します。
12. バンキングトロイ

バンキングトロイは、銀行や決済サービスの認証情報を盗み、不正送金を支援します。
主な機能は次のとおりです。
偽ログイン画面の重ね合わせ
ブラウザへの不正な画面挿入
SMS認証コードの窃取
Androidアクセシビリティ機能の悪用
セッションの乗っ取り
遠隔操作による送金
送金先アドレスの置換
13. ランサムウェア

ランサムウェアは、データやシステムを利用不能にし、復旧と引き換えに金銭を要求します。
CISAは、ランサムウェアがファイルを暗号化するだけでなく、事前に情報を窃取し、公開すると脅す手法へ変化していると説明しています。
現在の主な形態は次のとおりです。
| 種類 | 内容 |
|---|---|
| 暗号化型 | ファイルを暗号化する |
| 画面ロック型 | 端末操作を妨害する |
| 二重恐喝型 | 暗号化と情報公開の脅迫を行う |
| 三重恐喝型 | DDoSや取引先への連絡も加える |
| 窃取恐喝型 | 暗号化せず、情報公開だけで脅す |
| 破壊偽装型 | 身代金を要求するが復旧できない |
Mandiantが2025年に対応したランサムウェア侵害では、77%で情報窃取が確認または疑われました。また約43%で仮想化基盤が標的となっていました。ただし、これはMandiantが対応した事例の統計であり、世界中の全ランサムウェア攻撃を示すものではありません。
14. ワイパー

ワイパーは、データやシステムを破壊することを目的とします。
ランサムウェアとの違いは、基本的に復旧と引き換えに金銭を得ることではなく、業務停止や証拠隠滅、社会的混乱を狙う点です。
破壊対象には次が含まれます。
ファイル
ファイルシステム
MBRやブート情報
バックアップ
仮想マシン
Active Directory
ネットワーク機器の設定
クラウドストレージ
ただし、ワイパーが身代金要求画面を表示し、ランサムウェアを装う場合があります。
15. ボットとボットネット

攻撃者の命令で動作する感染端末をボットと呼びます。
多数のボットをまとめたネットワークがボットネットです。
主な用途は次のとおりです。
DDoS
スパム送信
総当たり攻撃
マルウェア配布
広告詐欺
プロキシ提供
暗号資産マイニング
Webサイト探索
16. クリプトマイナー・クリプトジャッキング

クリプトマイナーは、被害者のCPUやGPUを使って暗号資産を採掘します。
サーバーやKubernetes環境では、次の兆候が見られることがあります。
CPU使用率が長時間100%に近い
不明なコンテナやPodが作成される
外部のマイニングプールへ通信する
XMRigなどのプロセスが動く
電力やクラウド料金が増加する
17. Webシェル

Webシェルは、侵害したWebサーバー上へ配置される遠隔操作用プログラムです。
PHP、ASP.NET、JSP、Pythonなどで作成され、HTTPリクエストを通じて命令を受け取ります。
OSコマンド実行
ファイルアップロード
ファイル改ざん
データベースへの接続
認証情報窃取
横展開
追加バックドアの設置
Webシェルは、Webアプリケーションの脆弱性を悪用した後の永続化手段として使われます。
18. ルートキット

ルートキットは、マルウェアのファイル、プロセス、通信、ドライバーなどを隠します。
存在する層によって分類できます。
ユーザーモードルートキット
カーネルモードルートキット
ブートキット
ハイパーバイザー型
UEFI・ファームウェア型
高度なルートキットは、OSの再インストールだけでは除去できない可能性があります。
19. ロジックボム・タイムボム

ロジックボムは、特定の条件が成立したときに動作します。
タイムボムは、特定の日時に動作するロジックボムです。
例としては、次の条件が考えられます。
特定の日付になった
特定ユーザーが削除された
ファイルが開かれた
ネットワークへ接続した
管理者が退職した
特定のシステム状態になった
20. ICS・OTマルウェア

ICS・OTマルウェアは、工場、発電設備、水処理施設、交通設備などを狙います。
目的には次が含まれます。
PLCの制御変更
センサー値の偽装
安全装置の妨害
操業停止
設備破損
監視画面への偽情報表示
ファイルレス攻撃とは

「ファイルが一切ない」という意味ではない
ファイルレス攻撃とは、主要な悪意あるコードを通常の実行ファイルとしてディスクへ保存せず、メモリや正規機能を利用して実行する攻撃です。
次の場所や機能が使われます。
PowerShell
WMI
Windowsレジストリ
JavaScriptやVBScript
Officeマクロ
メモリ
タスクスケジューラ
正規プロセスへのコード注入
「ファイルレス」という名称でも、最初の文書、ショートカット、スクリプト、ログなどがディスクへ残る場合があります。
重要なのは、主要なペイロードが一般的な実行ファイルとして保存されないことです。
インメモリ実行

インメモリ実行では、悪意あるコードをメモリへ直接読み込みます。
ディスク上のファイルを中心に検査する従来型アンチウイルスでは、検出が難しくなる可能性があります。
ただし、プロセスの親子関係、メモリ操作、コマンドライン、外部通信などを監視するEDRでは検出できる場合があります。
プロセスインジェクション

プロセスインジェクションは、正規プロセスのメモリへ悪意あるコードを挿入する手法です。
主な例は次のとおりです。
DLL Injection
Process Hollowing
APC Injection
Thread Execution Hijacking
Reflective DLL Loading
MITRE ATT&CKでは、これらをProcess Injectionとして分類しています。
Living-off-the-Landとは

Living-off-the-Landは、攻撃対象に最初から存在する正規ツールや機能を悪用する手法です。
例えるなら、侵入者が自分の工具を持ち込まず、建物内にある工具や鍵を使って犯行を続けるようなものです。
Windowsでは次のツールが悪用されます。
PowerShell
cmd.exe
rundll32.exe
regsvr32.exe
mshta.exe
msiexec.exe
certutil.exe
wscript.exe
cscript.exe
WMI
Linuxでは次が使われます。
bash
curl
wget
python
perl
ssh
cron
systemctl
MITRE ATT&CKは、正規バイナリを代理実行に利用する手法をSystem Binary Proxy Executionとして整理しています。また、PowerShellやWMIも、コマンド実行や永続化へ悪用される技術として分類されています。
正規ツールを禁止すれば解決するわけではありません。
管理者も同じツールを使用するため、次の条件を組み合わせて判断する必要があります。
誰が実行したか
どの親プロセスから起動したか
どの時間帯だったか
どの引数を指定したか
エンコードや難読化があるか
実行直後に外部通信したか
永続化設定を変更したか
AI増幅型マルウェアとは
AIはすでに攻撃支援へ使われている

攻撃者は生成AIを次の用途へ利用できます。
フィッシング文面の作成
翻訳
標的ごとの文章調整
スクリプト作成
難読化
脆弱性の調査
ログや設定ファイルの解析
攻撃手順の高速化
偽サイトや偽アプリの作成
実行中にLLMへ問い合わせるマルウェアも確認された

Google Threat Intelligence Groupは2025年、PROMPTFLUXという実験的なドロッパーを確認しました。
PROMPTFLUXはGemini APIへ問い合わせ、VBScriptの難読化や回避用コードを取得する仕組みを持っていました。
ただし、Googleの分析では、確認された検体は開発・試験段階であり、被害者のネットワークや端末を実際に侵害できる完成状態は示されていませんでした。
したがって、次のように区別する必要があります。
確認された事実
攻撃者が生成AIを攻撃ライフサイクルへ利用している
実行中にLLM APIへ問い合わせる実験的マルウェアが確認された
AIを使った難読化やコマンド生成が研究・試行されている
現時点で断定できないこと
完全自律型AIマルウェアが広く普及している
すべてのマルウェアがAIで自動変異している
従来のEDRやアンチウイルスが無意味になった
AIは攻撃者の能力を増幅しますが、認証情報管理、パッチ適用、最小権限、バックアップ、監視などの基本対策が不要になるわけではありません。
なぜマルウェアは複雑化したのか
原因1:犯罪が分業化された
以前は、1人または1グループがマルウェアの開発、配布、侵入、金銭回収まで行うことが多くありました。
現在は、次の役割へ分業されています。
マルウェア開発者
│
▼
MaaS・RaaSの運営者
│
▼
フィッシング・初期侵入担当
│
▼
Initial Access Broker
│
▼
横展開・データ窃取担当
│
▼
ランサムウェア実行者
│
▼
恐喝・資金洗浄担当
Mandiantは、RaaSによる商品化と専門分業が、ランサムウェアへ参入する技術的な障壁を下げていると説明しています。
原因2:防御製品を回避する必要がある
セキュリティ製品がファイルのハッシュや署名を検査するようになると、攻撃者は次の技術を使うようになりました。
パッキング
暗号化
難読化
ポリモーフィック化
メタモーフィック化
ファイルレス実行
プロセスインジェクション
正規ツールの悪用
セキュリティ製品の停止
ログの削除
原因3:クラウドとIDが新たな攻撃対象になった
クラウドでは、端末内のファイルを感染させなくても、APIキーやセッショントークンを盗めば操作できる場合があります。
攻撃者は、次の操作を正規API経由で実行できます。
ストレージの読み取り
仮想マシンの作成
IAM権限の追加
ログの無効化
バックアップの削除
暗号資産マイニング
データの持ち出し
この場合、従来型の「悪意ある実行ファイル」は存在しない可能性があります。
マルウェア感染の確認方法
最初に行うこと
感染が疑われる場合、いきなりファイルを削除したり、サーバーを初期化したりしないでください。
証拠や侵入経路を失う可能性があります。
優先順位は次のとおりです。
対象端末をネットワークから隔離する
実行中のプロセスと通信を記録する
ログとメモリ情報を保全する
影響範囲を確認する
認証情報を安全な別端末から変更する
除去または再構築する
復旧後に再侵入がないか確認する
Windowsで実行中プロセスを確認する
目的
実行ファイルの場所、コマンドライン、親プロセスを確認します。
実行場所
管理者権限のPowerShellで実行します。
Get-CimInstance Win32_Process |
Select-Object ProcessId, ParentProcessId, Name, ExecutablePath, CommandLine |
Sort-Object Name
正常例
ProcessId : 1420
ParentProcessId : 760
Name : svchost.exe
ExecutablePath : C:\Windows\System32\svchost.exe
CommandLine : C:\Windows\System32\svchost.exe -k netsvcs
異常を疑う例
Name : svchost.exe
ExecutablePath : C:\Users\user\AppData\Roaming\svchost.exe
CommandLine : powershell -enc ...
判断方法
ファイル名だけでは判断しません。
次の組み合わせを確認します。
Windows標準プロセスなのに保存先がユーザーフォルダ
OfficeやPDF閲覧ソフトからPowerShellが起動
長いBase64文字列が指定されている
一時フォルダ内の実行ファイル
実行直後に未知の外部IPへ接続
Windowsの外部通信を確認する
目的
外部へ接続しているプロセスを確認します。
実行場所
管理者権限のPowerShellです。
Get-NetTCPConnection -State Established |
Select-Object LocalAddress, LocalPort, RemoteAddress, RemotePort, OwningProcess
プロセス情報を追加して確認する場合は次を使用します。
Get-NetTCPConnection -State Established |
ForEach-Object {
$process = Get-Process -Id $_.OwningProcess -ErrorAction SilentlyContinue
[PSCustomObject]@{
Process = $process.ProcessName
PID = $_.OwningProcess
RemoteAddress = $_.RemoteAddress
RemotePort = $_.RemotePort
}
}
正常例
ブラウザが443番ポートでWebサイトへ接続している状態です。
異常を疑う例
WordやExcelが直接外部IPへ接続
不明な一時ファイルが高頻度で通信
深夜に管理ツールが未知の国のIPへ接続
一定間隔で同じ宛先へ短い通信を繰り返す
判断方法
宛先IPだけで悪性と断定しません。
プロセス、ユーザー、時刻、通信間隔、DNS、TLS情報を組み合わせて判断します。
Linuxで実行中プロセスを確認する
目的
CPU使用率の高いプロセスや、不審なコマンドラインを確認します。
実行場所
対象Linuxサーバーのシェルです。
ps auxww --sort=-%cpu | head -30
プロセスツリーも確認します。
ps -ef --forest
正常例
postgres
gunicorn
nginx
redis-server
sshd
運用環境で利用している既知のサービスが表示されます。
異常を疑う例
/tmp/.x/kinsing
/var/tmp/kdevtmpfsi
bash -c curl http://... | sh
python -c import socket...
判断方法
次を確認します。
実行ファイルの保存場所
親プロセス
実行ユーザー
CPUとメモリ使用率
コマンドライン
ファイルの作成日時
パッケージ管理下のファイルか
Linuxの待受ポートと外部通信を確認する
目的
不明な待受ポートや外部通信を確認します。
実行場所
対象Linuxサーバーです。
sudo ss -tulpn
確立済み通信を確認します。
sudo ss -tpn state established
正常例
環境で許可しているNginxの80・443番、SSH、データベースなどが表示されます。
異常を疑う例
設計書にないポートが全インターフェースで待受
NginxやDjangoから不明な外部IPへ接続
一時フォルダ内の実行ファイルが通信
通常使わないIRCやマイニングプールへの通信
Linuxの一時フォルダを確認する
目的
一時フォルダに作成された実行可能ファイルを確認します。
実行場所
対象Linuxサーバーです。
sudo find /tmp /var/tmp -xdev \
-type f -perm /111 -mtime -7 -ls 2>/dev/null
正常例
結果がない、または管理者が配置した既知の一時ファイルだけが表示されます。
異常を疑う例
ランダムな名前のELFファイル
所有者がWebサーバー実行ユーザー
作成直後から外部通信している
削除しても再作成される
注意事項
見つかったファイルを直接実行しないでください。
削除前に、ハッシュ、所有者、日時、親プロセス、通信先を記録します。
sha256sum /path/to/suspicious-file
stat /path/to/suspicious-file
file /path/to/suspicious-file
systemdとcronの永続化を確認する
目的
再起動後にも実行される不審な設定を確認します。
実行場所
対象Linuxサーバーです。
systemctl list-unit-files --type=service
systemctl list-timers --all
sudo crontab -l
sudo ls -la /etc/cron.d /etc/cron.daily /var/spool/cron
異常を疑う例
/tmpや/var/tmpを実行するサービスcurlやwgetで定期的に外部ファイルを取得Base64文字列を復号して実行
ランダムな名前のサービス
削除しても復活するcron
Dockerを確認する
目的
不明なコンテナ、イメージ、マウント、CPU負荷を確認します。
実行場所
Dockerホストです。
docker ps --no-trunc
docker stats --no-stream
docker image ls --digests
コンテナのマウントを確認します。
docker inspect <コンテナ名またはID> \
--format '{{json .Mounts}}'
異常を疑う例
承認していないコンテナ
不明なレジストリのイメージ
Docker Socketが不要なコンテナへマウントされている
ホストのルートディレクトリがマウントされている
常時高CPUを使用する不明なコンテナ
--privilegedで動く不要なコンテナ
Kubernetesを確認する
目的
不明なPod、DaemonSet、特権コンテナを確認します。
実行場所
管理用端末またはコントロールプレーンです。
kubectl get pods -A -o wide
kubectl get daemonsets -A
kubectl get cronjobs -A
特権コンテナを確認します。
kubectl get pods -A -o json |
jq -r '
.items[] |
.metadata.namespace as $ns |
.metadata.name as $pod |
.spec.containers[] |
select(.securityContext.privileged == true) |
"\($ns)\t\($pod)\t\(.name)"
'
異常を疑う例
見覚えのないDaemonSet
全ノードで動く不明なPod
不要な特権コンテナ
ホストの
/や/var/run/docker.sockをマウント外部の不明なイメージ
マイニングプールへの通信
ServiceAccountへ過剰な権限が付与されている
感染が疑われる場合の対処方法
1. ネットワークから隔離する
EDRの隔離機能、スイッチ、VLAN、ファイアウォールなどを使い、感染端末の通信を止めます。
ただし、電源を直ちに切るとメモリ上の証拠が失われます。
ランサムウェアが現在進行中で、共有フォルダやほかの端末へ被害が拡大している場合は、証拠保全より拡散停止を優先する判断も必要です。
2. 証拠を保全する
最低限、次を保存します。
プロセス一覧
ネットワーク接続
ログイン履歴
DNSログ
EDRアラート
ファイルハッシュ
作成・更新日時
タスクスケジューラ
cron、systemd
クラウド監査ログ
コンテナとPodの定義
3. 認証情報を変更する
感染した可能性がある端末からパスワードを変更してはいけません。
安全な別端末を使用します。
変更対象は次のとおりです。
OSアカウント
メール
VPN
GitHub、GitLab
AWS、Azure、Google Cloud
Cloudflare
SSH鍵
APIキー
データベース
CI/CD
SaaS管理者アカウント
セッションCookieとトークンも失効させます。
パスワード変更だけでは、盗まれた有効なセッションを止められない場合があります。
4. 侵入経路を閉じる
脆弱性へ修正プログラムを適用する
漏えいした認証情報を無効化する
不要な外部公開ポートを閉じる
悪意あるメールやファイルを全端末から削除する
不正なOAuthアプリを解除する
改ざんされたパッケージやイメージを除外する
Webシェルを設置された脆弱性を修正する
5. 原則として信頼できる状態から再構築する
ルートキット、管理者権限の侵害、ドメイン侵害、ファームウェア感染が疑われる場合、ファイルを削除するだけでは安全を確認できません。
信頼できるイメージから再インストールまたは再構築します。
バックアップを復元する場合も、感染前の時点であり、マルウェアが含まれていないことを確認します。
動作確認
復旧後は、マルウェアが消えたことだけでなく、侵入経路と永続化が残っていないことを確認します。
確認項目
不審なプロセスが再出現しない
不審な通信が再発しない
不明なアカウントが存在しない
管理者権限が適正である
cron、systemd、タスクスケジューラが正常である
Webファイルの改ざんがない
コンテナとPodが承認済みである
クラウドAPIキーが更新済みである
旧セッションが失効している
MFAが有効である
EDRが正常に動作している
バックアップから実際に復元できる
外部公開サービスへ修正が反映されている
監視期間
復旧直後だけでなく、一定期間は次を重点監視します。
同一IPやドメインへの再接続
同じファイルハッシュの再作成
同じユーザーによる異常ログイン
深夜や休日の管理操作
新しいOAuth連携
新しいSSH鍵
新しいServiceAccount
新しいDaemonSet
新しいクラウドアクセスキー
再発防止
1. パッチ管理
OS、VPN、ファイアウォール、Webフレームワーク、ライブラリ、仮想基盤を継続的に更新します。
Verizonの2026年DBIRでは、脆弱性悪用が同レポートの侵害データにおける最大の初期侵入経路となっていました。
特に優先する対象は次のとおりです。
インターネットへ公開している製品
CISA KEVへ掲載された脆弱性
VPN、ファイアウォール
メールサーバー
ファイル転送製品
仮想基盤
Webフレームワーク
認証基盤
2. 多要素認証
管理者、VPN、クラウド、メール、Git、リモートアクセスにはMFAを設定します。
可能であれば、SMSよりFIDO2、パスキー、ハードウェアセキュリティキーなどのフィッシング耐性が高い方式を優先します。
3. 最小権限
一般利用と管理作業のアカウントを分ける
常時管理者権限を使わない
KubernetesのClusterRoleBindingを制限する
Docker Socketを不要なコンテナへ渡さない
クラウドIAMへ期限と条件を設定する
CI/CDのトークンをリポジトリ単位で制限する
4. ネットワーク分離
利用者端末とサーバーを分ける
管理ネットワークを分離する
バックアップ環境を分離する
サーバー間通信を必要最小限にする
KubernetesのNetworkPolicyを設定する
データベースをインターネットへ直接公開しない
5. バックアップ
ランサムウェア対策では、バックアップの存在だけでなく、攻撃者から削除・暗号化されないことが重要です。
推奨構成は次のとおりです。
本番データ
│
├── オンラインバックアップ
│
├── 別アカウント・別環境のバックアップ
│
└── オフラインまたはイミュータブルバックアップ
定期的に復元試験を行います。
6. アプリケーション制御
AppLocker
Windows Defender Application Control
SELinux
AppArmor
コンテナの読み取り専用ファイルシステム
実行可能ディレクトリの制限
Officeマクロ制御
スクリプト実行ポリシー
単純な拡張子禁止だけでは不十分です。
7. ログを一元管理する
端末、サーバー、クラウド、認証、ネットワークのログを相関分析します。
flowchart LR
A[EDR・端末ログ] --> F[SIEM・XDR]
B[IPS・Firewall] --> F
C[DNS・Proxy] --> F
D[Cloud Audit Log] --> F
E[Kubernetes Audit] --> F
F --> G[相関分析]
G --> H[自動隔離・チケット・通知]
8. ソフトウェアサプライチェーンを保護する
lockファイルを使用する
パッケージのハッシュを確認する
依存関係を定期監査する
SBOMを作成する
コンテナイメージへ署名する
信頼するレジストリを限定する
CI/CDの秘密情報を短期間で更新する
管理者変更やパッケージ移管を監視する
CISAは、実際に広く利用されるnpmパッケージへマルウェアが混入した事例を注意喚起しています。
WAF・IPS・EDR・XDRは何を防げるのか
| 対策 | 得意な領域 | 単独では防ぎにくい領域 |
|---|---|---|
| WAF | SQLi、XSS、Web攻撃、既知の不正リクエスト | 管理PCの感染、盗難ID、内部横展開 |
| IPS | 既知脆弱性悪用、C2通信、スキャン | 暗号化通信内の未知攻撃、正規ID悪用 |
| アンチウイルス | 既知マルウェア、悪意あるファイル | ファイルレス、正規ツール悪用 |
| EDR | プロセス挙動、親子関係、メモリ、端末隔離 | ネットワーク全体やSaaSだけの攻撃 |
| XDR | 端末、ID、メール、クラウドの相関 | ログが取得できない機器 |
| SIEM | 複数ログの長期分析、相関、監査 | エージェントによる直接隔離 |
| NDR | ネットワーク内の異常通信、横展開 | 暗号化通信の内部内容、端末内だけの動作 |
| CNAPP・CWPP | クラウド、コンテナ、Kubernetes | 利用者端末やメール攻撃 |
WAFを導入していても、フィッシングで管理者のCookieを盗まれれば侵入される可能性があります。
EDRを導入していても、監視対象外のVPN装置やハイパーバイザーが侵害される可能性があります。
製品を1つ導入するのではなく、端末、ID、ネットワーク、クラウド、バックアップを組み合わせて守る必要があります。
注意点・よくある誤解
「ウイルス対策ソフトがあれば安全」は誤り
アンチウイルスは重要ですが、盗まれた認証情報、クラウドAPI、正規管理ツールだけを使う攻撃には限界があります。
「Linuxにはマルウェアがない」は誤り
Linuxサーバーも、Webシェル、ルートキット、暗号資産マイナー、ランサムウェア、認証情報窃取の対象です。
「ファイルレスなら痕跡が残らない」は誤り
プロセス生成、PowerShellログ、WMI、メモリ、ネットワーク、認証ログなどに痕跡が残る可能性があります。
「マルウェアフリー攻撃はマルウェア感染の一種」は厳密には異なる
マルウェアフリーは、悪意ある専用ファイルを使用せず、正規ツールや認証情報で攻撃する活動を表します。
マルウェアの種類ではなく、攻撃手法の分類に近い言葉です。
「ランサムウェアは暗号化だけを行う」は誤り
現在は、暗号化前の情報窃取、バックアップ破壊、仮想基盤攻撃、公開脅迫などが組み合わされます。
「AIマルウェアがすでに完全自律化した」は確認できない
AIを難読化、コマンド生成、フィッシング、調査へ利用する事例は確認されています。
一方、人間の指示なしに標的選定から侵入、横展開、破壊まで完遂する完全自律型マルウェアが一般化したという一次情報は確認できません。
「2025年のマルウェアの37%がインフォスティーラー」は確認できない
Gemini原文には、「2025年の全マルウェアインシデントの約37%」という記載がありました。
しかし、調査対象、母数、地域、製品テレメトリーなどを明示した信頼できる一次情報を確認できなかったため、本記事では採用していません。
代わりに、Mandiantが確認した「盗難認証情報が2024年の初期侵入経路の16%を占めた」という、範囲の明確な数値を使用しています。
まとめ
マルウェアは、悪意あるソフトウェア全体を表す総称です。
ウイルス、ワーム、トロイの木馬だけでなく、ランサムウェア、インフォスティーラー、RAT、バックドア、Webシェル、ルートキット、ワイパーなど、多くの種類があります。
歴史的な変化は、次のように整理できます。
1980年代
自己複製とネットワークワーム
↓
1990年代
ファイル感染・マクロウイルス
↓
2000年代
メールワーム・ボットネット・金銭目的
↓
2010年代
標的型攻撃・ICS・ランサムウェア
↓
2020年代前半
RaaS・サプライチェーン・クラウド侵害
↓
2025~2026年
インフォスティーラー・ID攻撃・ファイルレス・AI増幅
現代の攻撃では、1つの検体名だけで判断してはいけません。
次の要素へ分解して確認する必要があります。
侵入経路
+
実行方法
+
永続化
+
遠隔操作
+
情報窃取
+
横展開
+
暗号化・破壊
+
犯罪サービスの運用形態
今後の防御では、ファイルのハッシュだけでなく、プロセス、通信、ID、クラウドAPI、コンテナ、仮想基盤を横断した監視が重要です。
基本対策であるパッチ適用、MFA、最小権限、ネットワーク分離、バックアップ、ログ監視は、AIを利用した攻撃に対しても引き続き有効です。
FAQ
Q1. マルウェアとコンピューターウイルスは同じですか?
同じではありません。
マルウェアは悪意あるソフトウェア全体です。ウイルスは、ほかのファイルへ感染して自己複製するマルウェアの一種です。
Q2. ワームとウイルスの違いは何ですか?
ウイルスは基本的に宿主となるファイルを必要とします。
ワームは単独で動作し、ネットワークなどを通じて自動的に広がる能力を持ちます。
Q3. トロイの木馬は自己増殖しますか?
トロイの木馬という名称は、自己増殖の有無ではなく、正常なソフトウェアを装う性質を表します。
自己拡散機能を追加で持つ可能性はあります。
Q4. ランサムウェアとワイパーの違いは何ですか?
ランサムウェアは、基本的に金銭を得るため、データを人質に取ります。
ワイパーは、データやシステムの破壊自体を目的とします。
ただし、ワイパーがランサムウェアを装うことがあります。
Q5. インフォスティーラーへ感染したら、パスワード変更だけで十分ですか?
十分とは限りません。
Cookie、セッショントークン、APIキー、SSH鍵なども盗まれている可能性があります。
すべてのセッションを失効し、トークンと鍵を再発行する必要があります。
Q6. WAFがあればWebシェルを防げますか?
既知の脆弱性悪用や不正リクエストを防ぐ補助になります。
しかし、認証情報を使った正規ログイン、未知の脆弱性、アップロード機能の設計不備などは、WAFだけでは防げません。
Q7. EDRがあればランサムウェアを完全に防げますか?
完全ではありません。
EDRは端末上の異常動作を検知・隔離する強力な対策ですが、監視対象外のVPN、ESXi、NAS、SaaS、クラウドAPIなどが攻撃される可能性があります。
Q8. AIが自動で新しいマルウェアを作っているのですか?
攻撃者がAIをコード作成、難読化、フィッシング、調査に使う事例は確認されています。
実行中にLLMへ問い合わせる実験的マルウェアも確認されていますが、完全自律型マルウェアが一般化したとは確認できません。
Q9. Linuxサーバーでは何を優先的に監視すべきですか?
次を優先します。
Webプロセスから起動されたシェル
/tmpや/var/tmpの実行ファイル不明なsystemdサービス
cronの改ざん
不明な外部通信
高CPUプロセス
SSH鍵と管理者アカウント
Docker Socket
コンテナの特権設定
Q10. マルウェア感染が疑われる端末の電源を切るべきですか?
状況によります。
電源を切ると、メモリ上の証拠が失われます。一方、ランサムウェアが拡散中であれば、ネットワーク隔離や停止を優先する必要があります。
組織では、事前にインシデント対応手順を決めておくことが重要です。
参考情報
NIST SP 800-83 Rev.1「Guide to Malware Incident Prevention and Handling for Desktops and Laptops」
Google Threat Intelligence Group「Advances in Threat Actor Usage of AI Tools」
Mandiant「Ransomware Tactics, Techniques, and Procedures in a Shifting Threat Landscape」
Microsoft「WannaCrypt ransomware worm targets out-of-date systems」
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